2008/06/05(木)無料着うたと著作権と原盤権
残念ながらPerfumeの所属レーベルはiTunesに楽曲を提供していないようだった。残念だがレーベルがそういう方針なら仕方がない。
ところで、同じようにお目当ての楽曲なりアーティストがiTunesに登録されていないことは良くあると思うのだけど、多くの場合その代わりに「オルゴール曲」が登録されている。
ポリリズムでもご覧のとおりオルゴール曲が2件も登録されている...
また、携帯でバナー広告なんかを見ていると「最新J-POP着うた無料」とか見かけたことはないだろうか。実際にその広告をクリックしてみると写真のような*1サイトがあって、無料で着うたや着メロがダウンロードできる。まあ、ほとんどの場合会員登録とかメルマガの受信がついてくるのだけど。
そしてこの手の無料サイトの配信曲は妙にラインナップが良い、最新曲が有料配信サイトよりも早くに着うた化さている場合もある。
音楽にまつわる権利は二つある
何でこんなことが起こるのか。知ってる人には当たり前だけど、今の音楽の権利が二重管理になっているというのが原因のひとつだったりする。
音楽の権利というと「JASRAC」が超有名ですが、実はJASRACは「音楽著作権」しか管理していない。実は、日本の音楽ソフトにはこれ以外に「原盤権」という権利が存在しており、こちらはJASRACとはまったく異なる管理のされ方をしているのだ。
それぞれの権利が著作権法の第何条に由来しているか、という話は省いてしまうが、大雑把に書くと以下のような権利になる。*2
権利 | 内容 |
---|---|
著作権 | 楽曲自身にまつわる権利 楽曲を歌ったり販売したりする際の権利 |
原盤権 | 録音された「音」に対する権利 商品として形になった音を利用する際の権利 |
対象 | 発生する権利 | 管理者 |
---|---|---|
楽曲そのもの | 著作権のみ | JASRAC |
CD | 著作権+原盤権 | JASRAC(著作権)+レコード会社(原盤権) |
念のために書いておくけど、「CD」と書いているのは例ね。もちろんレコードでもDVDでもカセットテープでもメモリ媒体でも「完成した作品として録音された音」なら全部含まれる。
音楽配信と原盤権
iTunesに代表される音楽配信サービスも例外ではない。Webサイトを見ると「JASRAC許諾xxxxxx号」なんて書いてあるからJASRACから許可を受けて配信してるってのは一見してわかるのだけど、実はそれ以外にも原盤権者(レコード会社)と個別に交渉して「CDの形になった音(原盤)を配信してもいいですよね」という許諾を貰っている。当然そこはビジネスなので何らかの対価が発生している。つまり「1曲売れたらnn円」ということなのだけど、たいていの場合完全歩合じゃなくて「最低限pp円はお支払いします」という約束がついている。これをMG(ミニマムギャランティー)と言ったりする。
で、ここで著作権と原盤権の管理の違いがもろに影響する。
JASRACが管理している著作権は良くも悪くも平等なのですよ、実は。JASRACはどんな楽曲でもどんな利用者でも、適切に申請して定められた著作権利用料を支払いさえすれば、原則として利用を許諾してくれる。*3
ところが原盤権はレーベル(レコード会社)の考え方によってまちまち。楽曲によって許可されるタイミングや条件(金額)が違ったり、許可する相手も商売の規模とか業界でのポジションとかによってOKが出たり出なかったりする。
なぜ「オルゴール」なのか
このあたりでピンときたのではないかと思うけど、「原盤権」と言うのは「録音された音」に対して発生しているのだ。だったらレコード会社によって録音されたCDを使わずに「別の録音」を起こしてしまえばそこにはレコード会社の権利は発生しない。そしてさっき書いたとおりJASRACはひたすら平等なので、原盤権の話がどうなっていようとも申請さえすれば著作権の利用許可が出てしまう!つまり、「旋律」や「歌詞」を使うためにはJASRACとだけ話をすればよくて、ややこしいレコード会社との交渉は行わなくて済むのである!!……ということで、iTunesには「本家」のレコード会社が製作した楽曲がないのにサードパーティーが製作したオルゴール曲だけがどんどんと登録されるようになっているのだ……
もちろんオルゴール(歌詞無し)にこだわる必要はないのだけれど、そのへんはAppleもレコード会社に遠慮して、正面から喧嘩を売るようなことは避けているのだろう。
そして無料着うた
一方まったく遠慮していないのが無料着うた業者である。上にスクリーンショットを載せたサイトでもオルゴール曲は配信しているのだが、堂々と「着うた」も配信している。そしてよく見ると「カバー」とか「オリジナルアーティスト」とか書いてある……つまりレコード会社の原盤を使わずに、さらにもともとのアーティストすら使わずに、誰か適当な別の歌手に歌わせた音源なのである!!
当然レコード会社の許可なんか取ってない。取る必要ないから。だからレコード会社への支払いは発生していないはず。
ちゃんとJASRACには支払いをしているみたいなので、つじつまは合ってるんですよ。
JASRACの許可が出ている以上、そしてレコード会社の原盤を使っていない以上は。
最初に気がついたときには開いた口がふさがらなかったけどね!
着うたサイトにはメルマガだの広告だのがついてくるのでサイト運営者側に収入がないわけではないと思うんですが、、レコード会社の提示する料率やMGを支払うためにはそんな収入ではやっていけないんですよ。(経験上)
それ以前にレコード会社の戦略で自社の関連サイトに優先的に許諾を出したりとか、一社独占にしたりとか、最新のヒットソングなんてそんなタイムリーに許可でないんですよ、普通は。よっぽど例外でメディアミックス戦略で大開放政策とか取ってない限り。
一方JASRACの料率は驚くほど安い...
速見表とかpdfとかに載ってますが。
※着信音専用の場合てな感じで、なんと「無料サイト」となので情報料0円です。つまり1回5円でOK。
広告料等収入の有無にかかわらず、1 曲1 リクエスト当たりの情報料の7.2%または5 円のいずれか多い額に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額とする。
超大雑把ですが、一人月10曲ダウンロードしても50円です。広告クリックを義務付けたりとかメルマガ送りつけたりして広告費を稼げば回収できない額じゃない。ポイントサイト風にしてアフリエイトと組み合わせるとかすれば、回収額以上にダウンロードされることも防げるだろうし。
当然サイトの維持費と(いくら無名アーティストを使ったとしても)着うたの制作費が必要になるので厳しい商売には違いないでしょうけど、それでも十分にまわせる範囲内だと思います。
しかも何も知らない顧客としては、最新の楽曲が(場合によっては)どこよりも早く配信されるというアドバンテージもありますから。少々の負担(広告クリックなど)は受け入れてもらいやすいでしょう。
……そもそも本人が歌ってない音源に需要があるのかという問題があるのですが、まあ、それなりにうまく歌ってれば本人じゃなくてもいいみたいです。結構いい加減なのね>主要顧客層
無料着うたサイトのこの先
そんなわけで最近結構流行っているらしいです。チラッと調べたら、無料着うた向けのカバー原盤を専門に製作するプロダクションまで現れたようで、ニッチ産業として暫くは伸びてゆきそうです。
ただ、やっぱりグレーな商売ではあるんですけどね。
レコード会社としては、着うた・着メロはシングルCD・アルバムCDと肩を並べる重要な収益源です。顧客の購買ルートがCDから携帯にシフトしている昨今、だまってやられっぱなしでいるとは思えません。
一応件の無料着うたサイトにしても、著作権利用料に相当する権利金はJASRAC経由で音楽出版社に還元されてはいるのですが、原盤権を駆使して収入を確保するのに比べたら明らかに収入減りますからね。
となると、どこかのタイミングでつっこみが入るでしょう。
無料着うたサイトはJASRACに支払いをしている以上そっち方面からつっこみを入れるのは厳しそうですし、同一性保持権とかもちょっとつらい気がします。
おそらく、アーティストのパブリシティ権から切り込んでくるんじゃないかと推測しています。
ほとんどのサイトで「オリジナルアーティスト○○」という表記をしていますが、このあたりをパブリシティ権から攻め込めば切り崩せる隙が出てきそうです。無料着うたサイト側としても、オリジナルアーティスト名を表記できないのは商売としてやりにくいですしね...
まー、著作権と原盤権という業界の二重構造と、そして何よりJASRACの強烈なお役所主義のおかげで出来た妙な商売ではありますが。いろいろ考える人はいるもんですねぇ。
……藤田咲の新曲を「初音ミク」に歌わせたカバー曲とか出たらどうするんだろ(笑)