2011/06/16(木)新聞記事のポータルサイト向け配信と、その責任の所在

名誉毀損訴訟:ヤフーに賠償命令 「手錠姿」配信写真掲載で--東京地裁 - 毎日jp(毎日新聞)
とか
ロス疑惑報道で産経新聞とヤフーに賠償命令 東京地裁 - MSN産経ニュース
とか
asahi.com(朝日新聞社):ヤフーと産経に66万円賠償命令 三浦和義氏の写真掲載 - 社会
の話。
ほかにも同様の記事がいっぱい出てるんで、気になる人は検索して読んでみてください。

いやー、これどうするんだろ、という気持ちです。
以前の仕事で、いくつかの新聞社からニュース記事の配信を受けていたことがありまして。そのときに各新聞社さんから、ポータルサイト向けの記事配信の条件を諸々聞いたのを思い出しました。

以下、複数の新聞社さんからのお話をまるっと丸めてますが、だいたいどこも同じような条件でした。

・記事には必ず配信元(新聞社)を明記しなければならない
記事自体の権利を主張するというのもあるのですが、その記事の文責が誰にあるのかを明確にする必要があるためです。実際に、ポータルサイトに掲載した記事にクレームがつくことはあるらしいのですが、そのときに誰の責任で記事が書かれたのかを明確にするために、必ず配信元は明記して欲しいと要請されました。

・記事の訂正は速やかに反映しなければならない
実は、どこの新聞社の記事もそれなりの頻度で「更新」「訂正」「削除」が入ってます。短かった記事が書き足されて記事が充実することもあれば、固有名詞の間違いが訂正されるようなものもあります。また、記事自体が取り下げられる場合もあります。これらの訂正が新聞社から出た場合、ポータルサイト側でも速やかに反映するように要請されます。
これも前の件と同様で、記事自体は新聞社が責任を持つものなので、新聞社側が訂正をしたらそれがすぐに反映されてくれないと困ります、ということです。

・ポータルサイトが個別記事の掲載・非掲載を制御してはいけない
新聞社から配信された記事はすべてポータルサイト側でも掲載しなければなりません。ポータルサイトの都合で一部の記事の掲載を差し止めたりしてはいけないと言うことになっています。
これも前述の条件と同じで、記事の責任が誰にあるのかを明確にする、ということからきています。記事を公開することの責任と同じように「公開しなかった」ことの責任というのがあります。その責任を含めて新聞社側が持つので、ポータルサイト側は公開・非公開の判断をしてはいけないと言うことになっています。
あと、これにはポータルサイトが自分にとって都合の悪い記事を「なかったこと」にするのはいけません、という話も含まれています。


さて、こんな感じで、ポータルサイトと新聞社はそれなりに記事の執筆責任というものを気にしておりまして、それを明確にするように種々の取り決めを行っていた訳なんですが。今回の判決ではこの辺の分担が認められなかったと言うことになり、色々前提が吹っ飛んだ感じになります。

素直に判決を受け取ると、記事の配信を受けるポータルサイト側にも編集・判断機能を持つべし、と言うことになるのですが、そうするとますます記事の責任の所在が曖昧になるような気もするんですが、どうですかね?

なにげに新聞社の記事配信も一般化して、大手ポータルサイト以外にも配信を受けてるところが結構あるんですが、どうなるんでしょうね、これ。

2011/05/09(月)クラウドインフラの証券化とその人生

どっかで書いた気もするけど、近未来の予測放談。
今後はクラウドインフラが証券化されて市場で流通するのではないかという妄想。いまでも企業への投資という形で間接的にはそうなっていると言えなくもないけど、今後はもっと直接的に「このクラウドに投資する」「このクラウドは利回り○%を期待できる」みたいな会話が交わされるようになるんじゃないかなーと。
その背景として考えたのは、やっぱクラウド関連インフラへの調達はそれなりに額が大きくてリスクが高いと言うこと。そして、大規模化する方が諸々有利と。いまは既存のプレーヤーが自分の体力の範囲内で投資を行っていますが、そのうち大規模化が体力を越えるというケースが出てくるでしょう。そもそも、クラウドってのは「不所有」による資産リスクの低減ってのが売りなわけですが、クラウド事業者にとってはそのリスクを集中的に被っているようなものなので、証券化でもしてリスクの分散を図らないとやってられなくなるわけです。
クラウド関係の技術は新ネタが出てくるのも早いし、一つの事業者が運用する複数のクラウドインフラでそれぞれ方向性が異なる事だって十分にあり得るわけです。たとえば、金融系対象のクラウドは一度売れてしまえば安定して利用されるが収益率は低い、Web系は高利回りだが顧客の落ち着きがないので売り上げ急減のリスク有り、とか。そんなことを考えると、市場で売買されててもおかしくないよね?

クラウド事業者にとっては、クラウドインフラって立ち上げるだけでなくて、そのクローズまでを見通す必要も出てくるんだよね。今はどこも立ち上げ期なのであんまり考えてないかもしれないけど、クラウドインフラの一生というのは考えてみてもいいと思う。

1. 立ち上げ期
初期のインフラ投資とスタートアップ顧客の獲得。
新しい技術・新しい課金体系・新しい切り口などで切り込んでゆく。
多少ディスカウントしてでも目立つ顧客を囲い込んで、ケーススタディにしたりとか。
利益よりもパイの拡大が先行する季節。

2. 拡大期
一定規模、且つ、成長株のの顧客が数件見え始める。新規の顧客も続々。
インフラ自体も拡大傾向で、投資額が右肩上がりになるが、売り上げの拡大がそれを上回る。
多少いびつな局面が見え始めても、勢いで伸ばしてゆける感じ。

3. 安定期
新規の顧客の流入が鈍り、既存の中堅・大規模顧客の売り上げがクラウド全体の売り上げを支配する印象が強くなる。
インフラ投資は既存顧客の拡大分+α程度。インフラ投資が抑えられる分、利益率は向上の気配があり。
ダイナミックさはなくなっても利益的においしいので事業的にはOK。

4. 縮小期
大規模顧客が数件抜け始める、ちょっと旬が過ぎた感じが世間的にも漂う。
コンペティタのより良い・安いサービスに追い上げられる。
インフラの拡大は停止。ありもので運用を回しつつ、効率化でぎりぎり利益を確保する局面。

5. EXIT
主要な顧客は他社or自社の後継サービスに移行済み。どうしても抜けられない顧客だけが残る最終局面。
運用もぎりぎりのところまで縮退し、隙あらばサービス廃止に持ち込みたい気持ち。
場合によっては残った顧客とインフラごと別の会社に売り払ってEXIT完了。

なんてね。
あくまで妄想ベースなので、何か事例があるとかそういうわけじゃないです。なんというか、惑星の一生みたいな感じで考えてました。
クラウド事業者は今後、こんな感じでインフラを改廃しながら事業を続けていくことになるんじゃないかと。

で、さらっと書きましたが、縮小期を過ぎて「おいしい」ところのなくなったクラウドインフラってのは、顧客ごと転売されるってケースもありそうだよねとか思ってます。そういうレガシーインフラを顧客ごといくつも買い集める会社も出てくるんじゃないかな。集めた顧客に投資して、次世代のインフラに集約・移行させてまた売りに出す、再生会社みたいなイメージ。


どんなもんでしょうね?

2011/03/08(火)日立がHDD事業(HGST)をWDに売却

ものすごく久しぶりです。会社のblogを書くようになってから、個人のblogまでかまってられないという気分だったのですが、たまには会社を離れてどうでもいい話を書きたかったので。

news - IBM→日立→WD (404 Blog Not Found)

あたりでまとめられている話からつらつらと。

弾氏の記事を勝手に要約
  • 日立がHDD事業を売却したよ
  • もうHDDは終わったよね (少なくともコンシューマー向けには)
  • クラウドインフラではまだまだHDD頑張るけど、一般の人が使うものじゃないよね
  • よくこんな高値で売れたよね
って話。

確かにコンシューマーというか、クライアントPCからHDDは姿を消しそうですね。業務用であろうとも、利用者の手元にある端末はどんどんと半導体ベースに置き換わっていく気がします。一方で、クラウド側ではますますストレージの需要は増していて、今後も当面主力はHDDだと思われるのですよ。この辺は弾氏の書いているとおり。

だから、HDDの需要がなくなるわけではない。
なのに、なぜ日立がHGSTを手放したかというと、単純にHDD単体では儲からないからでしょう。
日立はHGSTという会社でHDDを作ってもいましたが、そのHDDを組み合わせた応用商品であるストレージシステムも作っています。というより、一定以上の規模のストレージでは世界一でしょう。日立は自社ブランドだけではなく、あちこちのブランドに対してハイエンドストレージをOEM供給しています。
このストレージシステムには当然HGSTのHDDが使われていると思われがちですが、実際には他社のHDDも使われています。安くて良い品であれば、グループ企業外の製品でも採用するんだそうです。
ということで、日立としてはHGSTのような一部品メーカーを手放したとしても、ストレージ市場では引き続き十分な存在感を保つことができますし、むしろHDDという採算の微妙な商品を切り離して、高付加価値で利幅の大きいハイエンドストレージに集中した方がグループ全体での損益は良くなるのかもしれません。

ところで、HDDの採算性が微妙というのは、HDDという「部品」の低価格化によって粗利が削られているだけでなく、好不況の波が大きいからではないかと思われます。少なくとも今までは、HDD出荷数の大きなボリュームを占めているのはクライアントPC向けだったと思われます。このクライアントPC、とにかく流通量の増減が激しい。好景気になれば個人も企業もPCの新規導入に走るし、不景気になれば買うのを止める。さらに、Windowsの新バージョンの発売タイミングだとか、Intelのチップセットのバグだとか、他の代替不可能な部品メーカーの都合でぴたっと流通が止まったりする。大量消費財メーカーのような設備産業にとって、需要の波というのは経営に対する不安定要因でしかありません。

じゃあ、HGSTを買ったWDはどうなのかというと、これまた弾氏が書いているように、今後クライアントPCからHDDが無くなってゆくというところに活路があるんではないかと思うわけです。クライアントPCはHDDの大量需要を生み出していましたが、先に書いたとおり需要が著しく不安定です。もし、HDDからクライアントPCの需要がなくなったとすると、残る需要はエンタープライズのみです。しかも、このエンタープライズ市場はクラウド化により需要の増加率が安定すると推測できます。
本来、マクロで見ればデータの増減=ストレージの需要は一定のペースで増加していくはずなのですが、今まではクライアントPCの時と同じように、サーバOSやハードウェアアーキテクチャの更新というイベントによって需要の波ができていました。しかし、クラウド化されたインフラでは、ハードウェアアーキテクチャのレイヤがクラウドという「サービス」に隠蔽されるので、ユーザ企業からは見えなくなります。つまり、ユーザ企業はただストレージの容量を求めるのみで、アーキテクチャの更新に合わせた設備の更新のような、波が発生する可能性が低くなるのです。
複雑な要素が絡んだ予測不可能なクライアントPCの波を離れ、需要の予測がしやすいされるエンタープライズをメインターゲットにするのであれば、以前よりも利益を出すことが幾分かは楽になるのではないでしょうか。

しかし、クライアントPCという大需要原を失うことは、絶対的なHDD需要の減少を意味します。安定はするものの、全体の需要が少なくなるという状態では、多くのメーカーが生き残ることは難しいでしょう。現在でもHDDのメーカーはそう多くありませんが、今後はさらに厳しくなってくるものと思われます。
そんなことを考えると、HDD専業メーカーであるWDがHGSTを買収して規模を拡大し、未来に残る唯一のHDDメーカーを目指したとしても不思議ではないと考えられるのです。


思う、思うと適当な表現が続いておりますが、わざわざ数字を調べるほどには気合いが入っていないということで。ああ、会社のblogと違って気が楽だなぁ。

2010/09/03(金)いますぐ個人で使うIPv6接続サービス

そろそろIPv6の季節。
ふと「今すぐ」個人がIPv6でインターネットを利用する*1にはどういう手段があるのだろう、という事が気になったので調べてみた。

IPv6の大規模トライアル、ドワンゴ、ミクシィ、ヤフーらが参加 (INTERNET Watch )
という話もあるし。

おそらくネイティブ接続・デュアルスタック接続で利用できる個人向けIPv6サービスはない。これは、NTTのフレッツ網でインターネットに抜けるIPv6パケットを通すことが困難だという事に起因している。そのため、個人がIPv6を使うには、何かしらのトンネルサービスを利用することになる。

トンネルサービスにはネットワーク型と端末型がある。
ネットワーク型は、自分用に複数のIPv6アドレスが払い出されるもので、自宅内のネットワークすべてをIPv6化することが可能だが、トンネルの終端に対応したルータを用意する必要があり、手軽ではない。また、利用する回線が限られる場合もある。
端末型の場合は、自分が利用するパソコン自体がトンネルを張るため、ルータを別途用意する必要はない。但し、IPv6化されるのはそのパソコンのみとなる。場合によってはモバイル環境でも利用できるため、非常に手軽だ。
タイプ提供事業者サービス名費用利用の前提
ネットワーク型IIJIPv6トンネリングサービス無料IIJmioの固定IPフレッツ接続サービス限定
5040円(ADSL), 8400円(フレッツ光)
freebitFB Feel6無料なし
YahooBB!IPv6インターネットサービス無料Yahoo!BB 光フレッツコース限定
提供地域限定
端末型IIJIPv6仮想アクセス(IIJmio)
IPv6仮想アクセス(IIJ4U)
無料IIJ4U/IIJmioの接続サービスを契約していること(モバイルOK)※
モバイルアクセス無線LANなど、315円~
OCNOCN IPv6315円/月OCNの契約があること※
バリュープラン 262.5円~
※印のサービスは、契約さえあれば各社の回線以外からでも利用可能(但し保証外)
ぱっと見、FB Feel6が無料且つ回線の縛りがないので手軽に見えます。
ただ、対応環境を用意するのがちょっと面倒でしょうか。Linux/BSDを設定できる人なら問題なさそうですが、Windows用の接続ソフトが更新されていないようなので、最近の環境に導入できるかどうか?

IIJのIPv6仮想アクセスは、IIJの接続サービスの契約があれば無料で利用できます。保証もサポートもありませんが、他社回線でもなんとなく使えますので自宅の環境を変えずに*2とりあえずIPv6を使うには楽かもしれません。
IIJの接続サービスで一番安いのが、IIJmioモバイルアクセスシリーズ(315円~)なので、ダミーでこれを契約しておけばよいでしょう。
接続方法はPPTPなので、WindowsやMacの標準クライアントで接続OK。
面倒であれば、無料で配布されているIIJモバイル セキュアリンクを使うと手軽に設定できます。(これ、IIJモバイルが接続されていなくても制限無く使えるんだよね)

ガッツのある使い方としては、3G回線*3と組み合わせて移動中にIPv6と言うのもありです。


OCN IPv6も同じような条件ですが、OCNの契約(252.5円~)に加えてIPv6サービスの料金(315円)が加算されるので、比較をすればお高めです ;-)


ということで、なんだかIIJの宣伝みたいになってしまいましたが、結局それが一番楽そうなんじゃないかなと言うことにしておきます。
他に何かいい方法あったら教えてください。

*1 : フレッツ閉域網じゃなくて

*2 : ブロードバンドルーターに「VPNパススルー」機能があればたぶん大丈夫

*3 : IIJモバイル以外でも使える

2010/08/23(月)クラウドインフラの構築は異文化交流(書籍:Googleクラウドの核心)

IIJ 次世代モジュール型エコ・データセンター実験



先頭を切って公開された首藤さんの記事の公開を皮切りに、昨日公開されたあきみちさんの総まとめまで、皆さんいろいろな観点でまとめられた記事が公開され、IIJが実施している次世代モジュール型エコ・データセンター(通称コンテナDC)の話題がプチ盛り上がっています。
などと第三者風に書いていますが、そもそもこのブロガー向け見学会の企画&説明をしている本人が私なので、大変自作自演的というかどうも皆様ありがとうございましたその節は大変お世話になりましたなどなど。

掟破りの「ブロガーミーティングを開催してきました(中の人)」的なエントリを書こうかと思ったのですが、レポート自体は皆さんの記事を参照していただく方がおもしろいと思うのでパスしときます。

Datacenter as a Computer

今回は、この見学会のレポートを書いていただいた首藤さんが監修されている、Googleクラウドの核心(日経BP)の話を実験と絡めて書いてみようかと思います。*1
Googleクラウドの核心
ルイス・アンドレ・バロッソ、ウルス・ヘルツル (著)
丸山不二夫、首藤一幸、浦本直彦 (監修)
高嶋優子、徳弘太郎 (翻訳)
日経BP社
本書は元々The Data Center as a Computerとして刊行されている洋書の翻訳であり、Googleの巨大コンピューティングの一端について解説した本になります。

何となく読むと「Googleすげー」的な本にも見えるのですが、、似たようなことをやっている人間からすると、こいつはクラウドインフラに関わる当事者が読むべき入門書だと感じるわけです。Googleがやっていることをまねするためではありません、このような巨大インフラを構成にするに当たり必要な要素が上から下まで網羅されているというのがポイントなのです。

インフラのコストを下げるためには

クラウドインフラを作ると言うことには、暗黙のうちにコストを削減するという圧力がある、ということにします。まあ、お金をいくらかけてもよければこんなにめんどくさいことやらなくていいですからね。
コストを下げるというのは、従来はサーバを安く入手したり、単体のサーバでより多くの処理をこなせるようにしたりという努力があったわけです。もちろんデータセンター(コンピュータの置き場所)を安く作るというのも重要なことです。
しかし、最近のコスト低減圧力はそんなレベルをとうに通り越して、それぞれのレイヤーでの努力だけではどうにもならないレベルにまで到達しています。

システムの品質というのを定義するのは難しいのですが、まあ皆さん何となく性能とか可用性とかを思い浮かべると思うので、そういうなのをひっくるめて「品質」と言うことにしておきましょう。「品質」は高ければ高いほどいいのですが、たいていの場合質を高めるとコストが高くつきます。そして、コストと見合いながら「このへんまでならいいかな」という感覚で要求する品質とコストの最適化を測ってきました。
そして、従来はこれは各レイヤーにおいて個別に行われていたのです。

個別にコストと品質のバランスが最適化されたシステムからさらにコストを下げるにはどうするか。そこで考えるのが、レイヤーをまたいだ最適化です。
サーバのパーツを豪華にして停止しにくくするのではなく、周囲の仕組みをあるサーバが停止しても影響を受けにくくする。高価なロードバランサを使う代わりにアプリケーションを工夫してセッションを共有する、とか。
あるレイヤーでは実現できなかった「品質」を別のレイヤーの「品質」を向上させることで、システム全体としての「品質」を低下させない(向上させる)という手法がとられてきました。

データセンターもシステムのレイヤーの一つである

そして、Datacenter as a Computerの言わんとすることは、このレイヤーをまたいだ最適化をデータセンターのレイヤーにまで広げようと言うことです。
従来ソフトウェアとインフラ(サーバ・ストレージ・ネットワーク)については、比較的近しいエンジニアが手がけてきたため、レイヤーをまたいだ最適化が意識無意識のうちに行われてきました。しかし、データセンターに代表される、いわゆる「ファシリティ」レイヤーについては、求められるスキルが大きく異なることもあり、なかなかその最適化の対象になってこなかったという現実があります。
そのため、データセンターのエンジニアは自分のテリトリーの中で最高を求め、インフラエンジニアは高品質なデータセンターを「当たり前」として使ってきました。
コストの削減のために、この、両者の垣根を取り払おうというのが本書の提言することです。

日本語版「Googleクラウドの確信」の目次は以下のようになっています。
1. イントロダクション
2. 負荷とソフトウェア基盤
3. ハードウェアの構成要素
4. データセンターの基礎
5. エネルギーと電力の効率
6. コストのモデル化
7. 生涯と修理への対応
8. WSCの課題
それぞれの章で取り上げられている内容は概要でしかないかもしれませんが、これは「ファシリティエンジニアがインフラやソフトウェアのことを知る」そして「ソフトウェア・インフラエンジニアがファシリティのことを知る」ために必要な基本的な要素が押さえられています。
その目的は、自分のレイヤーが解決できない課題を他のレイヤーに任せること、あるいは他のレイヤーが解決できない課題を自分のレイヤーで解決すること。

特に4章、5章ではデータセンターがどのような技術により構築されており、何にコストがかかっているかを紹介しています。インフラエンジニアやソフトウェアエンジニアがこの章を読むことで、どのような要求を切り下げることでデータセンターのコストが引き下げられるのか、そして、そのために何を作らなければならないのかというアイデアを得ることができるでしょう。
そして、ソフトウェア・インフラエンジニアが、電力や冷却などのファシリティの特性を考慮したシステム作ることで初めて、ファシリティエンジニアは今までの固定観念から解放され、新しい(低コストな)ファシリティを作ることができるのです。

ぶっちゃけ、データセンターの現場は土建・設備業界です。*2もちろん中にはコンピュータやシステムに対して大変造詣の深い方もいらっしゃいますが、業界としてはオフィスビルを建てたりプラントを作ったりしている方々なのです。彼らは大変優れた技術をお持ちですので、「この条件を満たす建物を建てて」とお願いすれば間違いのないものを作ってくれます。しかし、彼らがITシステムを見て「この設備省略したいから、システムのここ何とかして欲しいんだけど」という要望を出してくれるかというと、残念ながらまだそれは難しいでしょう。現時点ではまだ、彼我の距離は近くありません。

だからこそ、クラウドインフラの構築というのは、異文化交流だと思うのです。
違う背景を持った技術者が互いの得意不得意を理解して、初めて効率的なインフラが作れるのです。
本書はそのきっかけとなる良い書籍です。これをとっかかりにして、文化の交流が進むことを切に願います。

*1 : 献本ありがとうございました

*2 : データセンター「オペレーター」さんはここでは含んでません

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えーと、本文とは関係ないのですが、技術評論社から出ている雑誌に記事を書かせていただきました。
こちらはIIJ GIOの紹介ってことになってます。今回のコンテナDCはGIOのために作っているので、まあ、関係ないわけではないかと。
GIOの仮想サーバって実際のところどうよ?って話もありますので、気になる方は是非どうぞ。
G-CLOUD Magazine
技術評論社