TRICOM-1について少しだけまとめてみる


※念のために書いておくと、まだこのロケット・衛星は打ち上げられていない。打ち上げタイミングは調整中とのこと。

TRICOM-1

JAXA/ISASの小型ロケットSS-520 4号機のペイロードとして打ち上げられるTRICOM-1という衛星に興味を持った。その切っ掛けは大貫氏の次のtweet。

2016年11月22日にSS-520 4号機の説明会が開催され、そこで行われたTRICOM-1概要の説明を受けてのTweet。上記のTweetを見て頭をよぎったのは次のようなこと。

  • 従来地上から衛星へのアップリンクには専用の無線機、アンテナを必要としていたが、それを市販品で実現していること。しかも無免許で利用できること。
  • 遠隔地に設置したセンサーのデータ収集を意識していること。

IoTと無線通信

これらはインターネット業界で「IoT」として注目されているジャンルに被ってくる。「IoT」(Internet Of Things)と言う用語は一種のプロパガンダであり、業界的に「Internet」を冠しているものの、要点だけ抜き出せば遠隔地に設置したセンサーからのデータ収集だ。1

IoT周辺ではいろんなカテゴリの技術が検討されており、中でもセンサーとの通信をどうするかというのは大きなテーマの一つ。いわゆるモバイル(携帯電話網)を使うだけでなく、LoRaやSigFoxに代表されるLPWAのような新しい無線通信規格が今まさに立ち上がらんとしているところである。

この手のIoT向け通信規格で注目されているのは次のような点。

  • 低コスト: センサーを大量にばらまくため
  • 低消費電力: 電池だけで長時間稼働可能
  • アンライセンス: 無線を使うのに個別の免許の取得の必要が無い
  • 低速: 他の条件を満たすために妥協するポイント

ただし、LPWAにカテゴリされる無線規格はいずれも地上系だ。地上に基地局を設置して、エリアを構成するというのが原則。携帯電話網なんかと比べると圧倒的に手軽(らしい)とはいえ、ある程度のエリアをカバーしようとすると基地局設置の手間がかかるし、利用密度の低い僻地への展開はなかなか難しい。

それに対してTRICOM-1は衛星系である。衛星一基で相当な広範囲をカバーできるし、人跡未踏な秘境だって衛星ならカバーできる。しかし、いくら衛星が広い範囲をカバーしようとも、そこにデータを打ち上げるための設備が面倒くさい、というのが今までの常識だったわけだ。それが改善されるとしたら?と仮定すると、急に話が色々変わってくる。

実用化?

ちなみに、TRICOM-1は衛星自体も相当に低コストな模様だ。衛星は10cm*10cm*30cmで3Kg程度と破格に小さい。今回は専用の打ち上げロケット2を使っているが、他の大型衛星のピギーバックサブペイロードとしても打ち上げできそうだ。

ただ、後にも書くが、今回の衛星は相当初期段階の技術実証機であり、このサイズで実用化できるとは思えない。また、衛星の寿命も1ヶ月程度と短い。寿命が短いのは低軌道であることの裏返しでもあるので、寿命を延ばすために軌道を高くすると今度は電波が届かない……なんて話も考えられる。たまたま今はこの条件でバランスしているが、実用化を考えた瞬間にバランスが崩れるという可能性もある。というか、まずこのままの形で使い物にはならないだろう。

とはいえ、小型低軌道衛星とアンライセンスバンドを使ったセンサーネットワークなんて大変夢溢れるアイデアは私にとっては画期的だった。もう少し詳しい情報が欲しくてググりまくってしまった。

情報不足

ところが、なぜかWebを見て回ってもTRICOM-1についての情報がほとんど見当たらない。ミッションの情報は6月時点で公開されていたようだが、宇宙ジャーナリストの松浦氏をして「情報が無い」と言わしめる状況のようだ。

ググってすぐに見つかるのは次のような情報。

  • 文科省によるSS-520-4ミッション説明。平成28年5月版ではTRICOM-1についてほぼ触れられていないが、平成28年10月版でTRICOM-1についてのページが追加されている。(この下に画像を引用)
  • 平成 27 年度電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会の発表。TRICOM-1 衛星に搭載するアンテナの開発という資料があるが、触れられているのはテレメトリ/コマンドアンテナのみで、肝心のデータ収集系については特に情報無し。
  • TRICOM-1の前身らしい「ほどよしプロジェクト」実施主体の超小型衛星センター。2015年9月で更新が止まっている。「東京大学工学系研究科 中須賀・船瀬研究室で現在開発中の3U衛星に搭載予定のS&Fミッション機器に関して、公開見積もり合わせを開始いたしました。」という新着情報があるのだが、肝心のリンク先がなくなっていて詳細はわからない。
TRICOM-1概要

TRICOM-1概要

ということで、にわかTRICOM-1ファンが追いかけるにはかなり厳しい状況……だったのだが。

SS-520-4記者会見動画アーカイブ

幸いなことに、夕方になって「ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ」によって今日の説明会の模様が録画、YouTubeへ投稿されているというのを見つけた。

1時間近くある動画なので全部を通しで見る時間は無かったのだが、TRICOM-1に関係しそうな部分だけをピックアップしてみることができた。関係ありそうな部分についてメモをとったので、折角なので掲載しておく。あくまでメモレベル。タイムスタンプを書いておくので、細かい話は各自で動画を参照して欲しい。(飛ばして試聴したので見逃しもあるかもしれない)

TRICOM-1についての説明は、東京大学工学系研究科 中須賀・船瀬研究室 松本氏

7:45~ TRICOM-1概要
・(上記引用画像の説明)
35: 40~ 微弱電波について・カメラについて・ミッションについて
・特定小電力を狙った実験
・日本国内では免許の要らない電波、非常に微弱20mW程度
・一般の民生品でいうとZigBeeなどで使われているようなもの
・(ZigBeeを出したのはあくまで「特小」の例示のためであり、ZigBeeそのものではなさそう)
41:10~ 衛星の制御について・カメラ分解能
42:40~ 撮影対象
45:00~ この衛星の特色
・Store & Forwardは民生最新の技術
・ほどよし衛星よりも安価に、民生品利用
・極めて広いエリア(地球規模)に配置したセンサーからの情報を収集する (ということをゴールに据えた基礎研究)
48:20~ Store & Forwardの対象・電波の種類
・コマンド・テレメトリの通信はは免許を取っている
・Store & Forwardは免許不要の電波を使っている (衛星側は受信のみ)
50:00~ ほどよし3号・4号の実績は反映されているか?商業化は?名前の由来は?
・ほどよし3号・4号は50Kg級の衛星 (TRICOM-1は3Kg)
・メインコンピュータのプログラムがそのまま移植されている
・データを「取り込む」→TRICOM
53:40~ 地上側送信装置はどのようなものか?
・市販品をそのまま使う、特小の電波を使う民生機器をそのまま使う
・特に指向性を持ったものではない

どうやら地上からのアップリンクは本当にアンライセンスバンドの模様。「20mW以下」というのが聞こえたので900MHz帯ではないかと推測しているのだが、具体的な周波数については触れられていなかったのが残念。

TRICOMって名前は「データを取り込む」から来てるんじゃないか?と予想していたのが当たったのが収穫と言えば収穫 🙂

  1. 遠隔地の機器のコントロールもあるし、収集したデータのビジュアライズや加工なども含む場合もあるので、それだけじゃないんだけど []
  2. これも十分に低コストなものだ []
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