先日Twitterを見ていたところ、「ISS(国際宇宙ステーション)のアマチュア無線機がONになった」という投稿を目にしました。アマチュア無線の中でも入門向けの機材である、433MHz帯のFMに対応した無線機と、ちょっとしたアンテナがあれば電波を受信できると言うことで興味をそそられ、私も受信にチャレンジしてみました。
ISSのクロスバンドリピータがONになっています
Up 145.99MHz(67Hz Tone) Down 437.80MHz
東京であれば次は今夜23:03に南の空から見えて6分間くらいかけて東の空に沈む感じです。かなり強い信号なので聞いてみたら出たくなると思います。軌道は下記のURLにありますhttps://t.co/SjOxOtuy9O— JH4PHW坂井志郎JA1CUF (@JH4PHW) September 3, 2020
残念ながら初回は準備不足で受信に成功しなかったのですが、2回目のチャレンジで受信に成功。コールサインの断片や「ありがとうございました」位の話で、ほとんど意味がある言葉は聞き取れませんでしたが、それでも宇宙からの電波を受信できたというのはなかなか感じるものがあります。
ということで、この記事ではISSの電波を受信する件について、自分のメモをかねてまとめておこうと思います。
ISSの何が聞こえるか
ISS 国際宇宙ステーションには様々な無線機が搭載されていますが、今回取り上げるのはアマチュア無線の設備です。これは、宇宙ステーションの運用や実験とは別に、宇宙飛行士の趣味、学校・子供へのサービス(スクールコンタクト)、その他アマチュア業務が扱われているようです。
ちなみに現在搭載されているのはJVC KENWOOD製のアマチュア無線機とのこと。日本メーカーの無線機ですが、ISS内の日本の設備として搭載されるわけではなく、ISS全体の設備として搭載されているようです。
- 当社製アマチュア無線機の国際宇宙ステーションへの搭載が決定 (株式会社JVCケンウッド)
- 日本各地の衛星通過時刻の予報 (JAMSAT)
- 日本地図から現在地に近い地点を選択→表示される衛星リストからISSを選択
- 東京の場合→http://www.jamsat.or.jp/pred/tokyo/iss.txt
- AOS(入感): 衛星が地平線現れる時刻。この時間以降電波が届く可能性がある
- MEL(最大仰角): 衛星がそのパスの間でもっとも空の高い位置にいる時刻
- LOS(失感): 衛星が地平線に沈む時刻。これ以降は電波が届かない
上記のARISSスクールコンタクトでは、子供の科学技術への興味関心を向上させるために、宇宙飛行士が直接通信(会話)するそうですが、それ以外のタイミングで宇宙飛行士が常時会話しているわけではありません。
上記Tweetに書かれた「レピータ」というのは、中継器のことです。このモードの時、ISSはある周波数で受信した通信を、別の周波数で再送信しています。実際には、地上の無線局から送信された通信をISSが受信して、再度地上に送り返すという動作をしています。このとき宇宙飛行士は通信に参加しません。宇宙ステーションをを経由しているものの、そこで交わされるのは地上の人同士の会話と言うことになります。
電波法において無線による通信を傍受することは禁止されていないため、第三者がこの通信を受信して聞くことは問題ありません。ということで、無線機を用意することで宇宙ステーションを介してやりとりされる、地上の人同士の会話を聞くことができるのです。宇宙飛行士が出てくるわけでないのでなーんだと思われるかもしれませんが、宇宙からの電波を受信・復調して耳にすると言うだけでも十分にエキサイティングだと思います、私は。
なお、今回は言及していませんが、ISSに向かって電波を発射して自分の通信を中継させることもできます。
いつISSの電波が聞けるのか
受信地からISSが見えている時間帯です。ISSはだいたい90分毎に地球を周回していますが、いつも日本の近傍を飛んでいるわけではないので、電波を受信(送信)できる時間帯は限られます。
ISSの現在の位置は、次の地図で確認できます。
今後の上空通過時刻はJAMSATのページで確認できます。
この表で重要なのは以下の部分です。(詳しい読み方は予報の書式に書かれています)
Date (JST) Time (JST) of Duration Azimuth at Peak Vis Orbit AOS MEL LOS of Pass AOS MEL LOS Elev Sat 05Sep20 23:06:20 23:11:40 23:17:04 00:10:43 212 134 55 41.2 NNN 24448 Sun 06Sep20 00:43:34 00:48:35 00:53:40 00:10:06 261 329 37 20.1 NNN 24449 02:22:50 02:26:30 02:30:13 00:07:22 305 349 32 6.0 NNV 24450 04:01:18 04:04:54 04:08:33 00:07:15 328 10 53 5.7 VVV 24452 05:37:54 05:42:48 05:47:49 00:09:55 324 29 96 18.4 DDD 24453 07:14:27 07:19:47 07:25:14 00:10:47 306 227 145 48.3* DDD 24454 08:53:29 08:55:54 08:58:19 00:04:50 265 238 211 2.4 DDD 24455 22:19:06 22:24:08 22:29:12 00:10:06 199 131 62 22.3 NNN 24463 23:55:35 00:00:51 00:06:07 00:10:32 249 326 41 30.7 NNN 24464
横一行が日本上空を通過する一回分の情報です。これを「パス (Pass)」と言います。それぞれのパスにおいて、「Time (JST) of」のカラムで衛星が上空を通過する時刻が表されています。
つまり、AOS~LOSの間の時間にISSの電波を受信できる可能性があります。その時間はDuration of Passにも書かれているとおり、毎回10分程度です。
この地図はOrb Trackを2020.09.05 23:04頃にスクリーンショットしたものですが、上記の表の「05Sep20 23:06:20」から始まるパスの直前と言うことになります。確かに衛星が日本に近づいてきているのが確認できます。
次の「Azimuth at」の項目は、それぞれAOS・MEL・LOSの時刻における、地上からみた衛星の方角を示しています。方角はアジマス角(方位角)で表されており、次の図のように北を0°として時計回りに360°となります。「05Sep20 23:06:20」から始まるパスは、AOSで212(南南西)から昇り、そこから反時計回りに移動してLOSで東北東に沈むこと事が分かります。Orb Trackに描かれた軌道と比べると感覚がつかめるでしょう。
また、「Peak Elev」は最も高い位置に衛星がいるときの仰角です。仰角が低すぎると、衛星が地平線の上に出ていても地上の山や建物に邪魔されて電波が届かない場合があります。「05Sep20 23:06:20」から始まるパスでは最大で41.2°の位置に衛星があったようです。
つまりここで表される方角にアンテナを向ければ、電波が受信しやすくなります。しかし、そこまで厳密にアンテナを向けなくても受信はできるようです。実際、私が「05Sep20 23:06:20」から始まるパスの電波を受信したのは、家の北側に設置したアンテナで、南向は完全に建物の陰に隠れていました。(そのせいか、かなり電波は弱かったのですが)
ちなみに、その次の「00:43:34」から始まるパスだと、アジマス角で261(西南西)から出て北の空を通り37(北北東)に沈みます。Orb Tracの二本目の起動も東京の北側を通過するように描かれています。
どうやってISSの電波を聞くのか
ISSとの通信は、UpLink(地上→ISS)と、DownLink(ISS→地上)で別の周波数を使います。レピータとして動作しているときは、UpLinkの通信がそのままDownLinkで送られてくるのですが、「ISSからの電波を受信する」という目的であればDownLinkの電波を受信することになります。
ARISSについて書かれたページのいくつかには、Uplinkが433MHz帯、DownLinkが144MHz帯と記されているのですが、現在はUplinkが145.99MHz、DownLinkが437.80MHzで運用されているようです。
First Element of ARISS Next Generation (Next-Gen) Radio System Installed in ISS Columbus Module
Initial operation of the new radio system is in FM cross band repeater mode using an uplink frequency of 145.99 MHz with an access tone of 67 Hz and a downlink frequency of 437.800 MHz. System activation was first observed at 01:02 UTC on September 2. Special operations will continue to be announced.
受信には437.800MHzが受信できるアマチュア無線機や、広帯域レシーバーが利用できると思われます。私はアマチュア無線機のFTM-400XDを使いましたが、受信専用のIC-R5も持っているので次のチャンスに試したいと思います。送信はしないので、小型の無線機で十分です。
アンテナについては……私には偉そうに書くほどの知見がまだありません。とりあえず普段交信に使っている2mほどのGPアンテナで受信できました。もっと小さいアンテナでも受信できると言うことなので、こちらもチャレンジしてみたいと思います。
ちなみに、ISSが高速で移動しているためドップラーシフトの影響を受けて、ISSが近づいてくるとき(AOS→MEL)は周波数を多少高め(437.805MHz)、遠ざかるとき(MEL→LOS)はすこし低め(437.795MHz)に合わせると受信しやすいそうです。FTM-400XDは標準だと細かい周波数の調整ができないので、設定を変更して5KHzステップにして調整しました。なお、スケルチは解放にする方が良さそうです。
チャレンジ
次のチャレンジではアンテナを工夫して、何を喋っているのか聞き取れるぐらいにはしたいものです。また、SDR受信機でスペアナ的に電波を見るのも面白そうなので、安物のSDRデバイスを調達してみようと思います。